鳳凰と妖狐の出会い
(一)



伝説の鳳凰の子孫だと言われる妖怪の一族が持つ美しい翼。
『鳳凰の翼』と呼ばれるそれは、一族が破滅へ向かった理由でもあった。
長寿とされるその翼を使えば、不死身になれるという噂が広まった。
そして、その噂と共に狩りの標的となり、『鳳凰の子孫』の数は次々と減っていった。
その結果、『鳳凰の翼』は、盗賊やコレクター達の間で欲しいものの一つとして上げられるようになった。
だが、翼欲しさ故に殺されてしまう為、生きたままの『鳳凰の子孫』はまさに伝説の存在となりつつあった。

は幼い頃からあらゆる方法で生きる術を伝えられた。
仲間が集まった村で妖術に守られている為ある程度は安全だとしても、それは『鳳凰の子孫』として必要不可欠なことに等しかった。
ある妖怪の団体に村が見つかり、は、妹の炎華を連れて逃げるように父に言われて逃げた。
しかし、逃げきったと思った瞬間、あるコレクターに雇われた妖怪達が襲ってきた。
姉として妹を守るのは役目だと感じていたは逃げるように言ったが、一人で逃げる訳にはいかないと思った炎華は逃げなかった。


『生き延びろ、


逃げる間際に言った父が言った言葉。
それを守る為には炎華の怪我を最小限に抑えるために捕まった。

牢屋のような部屋に入れられ数日。
炎華だけが連れて行かれた。
その瞬間、は嫌な予感がした。

「私も連れて行け!」
「お前は呼ばれてないんだよ」

ニヤリと厭らしい笑みを浮かべた相手には更に出すように叫んだ。
うるさい、と言いながら檻を蹴った相手を睨みつければ、荒い気性の女だな、と言われる。

「もう一人は素直に言う事を聞くだろうに」
「可愛い声だろうしな」

扉の傍に立っていた妖怪が厭らしい顔で笑った。
しかし、その言葉はの怒りを爆発させた。

「貴様ッ・・・!」

ガシャン、との腕を拘束する鉄の塊が檻とぶつかった。
今すぐにでも殺してやりたいと思うとは逆に、呪符のついたそれはの妖気を抑えている。

「炎華の所に連れて行け!」

その時、遠くで爆発音が聞こえた。

「な、何だ?!」

の傍に居た妖怪は驚きのあまりよろけた。
その一瞬の隙にはその妖怪の腰についていた剣を掴んだ。

「なッ・・・!」

檻の中に引きずり込んだ剣の刃を使い、手錠につけられた呪符を切った。
いくつもついた呪符の内数枚を切ると妖気が僅かに戻った。

「お、お前ッ・・・!」
「触るな!」

剣を取り戻そうと腕を折りの中に入れた妖怪を睨みつけ、腕を振り上げると妖怪は炎に包まれた。

「ぎゃああああ!」

燃える仲間を驚いた様に見て、扉の傍に居た妖怪は自身を守る体制に入った。
自身の妖気と剣を使って足を拘束していた鎖の真中を切った。
重りがついているとはいえ、自由になった両足で立ち上がると、重りを腕にもつけたまま剣を振り上げて檻の鉄を切った。

「お前ッ!」

そんな重りをつけて何故そんなに動けるのだろうか、と思いつつも妖怪はへ剣を振り上げた。
檻から出たは剣でそれを受け止めた。

「ッ・・・」

多少呪符の数が減って影響が少なくなったとはいえ、未だに残っている呪符の力は相当な物だった。
その為、反動で妖気が自分に返ってくるは腕にいくつか傷が出来ていた。
その事に気付いた妖怪はニヤリと笑った。

「呪符の反動でボロボロになっていくぞ?反抗するだけ無駄だ」
「黙れ・・・!」

笑って剣を向けた相手をは睨みつけた。
その時、遠くで炎華の気配が途切れた。

「炎華・・・?」

動揺し、小さく呟くと再び爆発音が聞こえた。

「どうやら逝ったみたいだなあ?」

くくく、と笑った妖怪は、心配するな、と続けた。

「妹のあとくらい追わせてやるよ!」

妖怪は、そう言った瞬間に剣を大きく振った。
自身へ向かってくる剣に恐れを見せず、は妖怪に掌を向けた。

「退け」

感情の篭っていない一言を呟いた瞬間、掌から炎の球が放たれ、妖怪は叫びながら燃えた。
それと同時に自身の妖気に呪符が反応し、体中に傷ができ血が出た。

「痛ッ・・・」

遠くで聞こえた爆発音の原因はわからない。
しかし妖怪達が騒ぎ出したのがわかったは妹の身を案じ、名を小さく呟いた。
檻のあった部屋から出ると、さっきまで感じていた妹の気配の方向へ駆けた。

「なんだ、この女は?!」
「雇われた奴か?!」

通路の曲がり角から来た妖怪達には真っ直ぐ進んでいった。

「退けぇー!」

血だらけになっても走っている相手に妖怪達は驚き、反応が遅れた。
その為、が振り上げた剣を避ける事が出来ず、真っ二つに切られた。

「こんな所で・・・!」


『生き延びろ、


それが父の最期の言葉。


死ぬ訳にはいかない。


そして一つの部屋の前にたどり着くと、ガンッ、と大きな音を立てて扉を叩いた。
先程まで炎華の気配を感じていた部屋だと思ったは重たい扉を急いで開けた。

「炎華!」

が息を切らしながらも呟いた相手の返事はなかった。
屋敷の中の辺りの騒がしさとは逆に、静まり返った部屋。
ぼんやりと薄明かりの部屋の中心は明かりの元があり、周りとは逆に明るかった。
その部屋の中心へゆっくりと目を向けた。
の視線の先には銀髪の妖狐と三本の角を持った妖怪が静かに立っていた。
そして、その妖弧の足元にぐったりと、赤い塊が横たわっていた。
紅色に染まったその塊には美しい緋色の翼が生えている。
の良く知る、小さい緋色の翼。

「炎華・・・?」

三本の角を持った妖怪が振向き、驚いたように目を開けた。
しかし、の視線は大切な人だったものが横たわる傍に赤く染まった腕で立つ男に向いていて、その妖怪には目もくれなかった。

「貴様ぁ・・・!」

悲しみよりも怒りが勝ったは呪符の存在など忘れてしまったかのように妖気を発し、体を真紅の炎が包んだ。
バサッと緋色の翼を広げると、ゆっくりと妖狐が振向いた。
妖狐は無感情な目でを見たが、は相手を睨みつけた。
そして、重たい足枷のことを忘れたかのように跳んだ。
一瞬の間に翼を一度羽ばたかせ、妖狐に向けて火に覆われた右腕を振り上げた。

「ぐ、ッ・・・・・・!」

だが、妖狐は素早くの鳩尾に拳で殴った。
突然の強いカウンターパンチには意識が途切れていくのがわかった。

「えん、か・・・」

失ってしまった最後の家族の名を呟き、そのままの意識は途絶えた。
先程まで勢いよく放たれていた妖気が急激に弱まり、三本の角を持った妖怪――黄泉――に向かってその体を妖狐は投げた。

「おおっ!・・・と」

いきなり渡されるように飛んできた少女を黄泉は慌てて受け止めた。
死んだのだろうかと思い、目を向けるが息はある。
冷酷といわれる自身の大将――蔵馬――が自分の命を狙った者を生かしておく事は珍しいことだった。

「何だ、この女?」
「知るか」

素朴な疑問を呟いたが、蔵馬の返答は素っ気無いものだった。
そろそろ行くぞ、と告げられ頷いた黄泉は、蔵馬が一瞬傷だらけの少女と床に横たわる生気のない体を見たのに気付いていた。



<二>



UP 04/25/14