鳳凰と妖狐の出会い
(二)
ゆっくりと目を覚ましたの目に最初に映ったのはどこかの部屋の天井だった。起き上がろうとすると体中が痛み、うう、と小さく呻き声を上げた。
生きてる・・・?
自分の体を良く見てみれば、あちこちが傷だらけだったが、全て手当てされた後があった。捕らえられていた時の枷も未だについているが、呪符はボロボロになっていた。
ここ、どこだろう?
ふと自分のいる場所がわからないことに気付いたは辺りを見回した。ランプ代わりのような小さな光る植物が薄暗く照らしている。
「お」
突然掛けられた声に驚き振り返った。
「目が覚めたか」
は目の前に立った黄泉を睨みつけた。
「そんな睨むなよ」
苦笑すると、黄泉はの前にしゃがんだ。それと同時には顔をそらすように俯いた。
「何故・・・?」
「ん?」
あまりに小さな声で聞き取れなかった黄泉は聞き返した。
「何故、殺さなかった・・・?」
の質問に黄泉は驚き目を見開いた。
こいつは死を望んでいるのか?小さな体で凄まじい妖気を放って、あの蔵馬に立ち向かっていったのに?
「死にたかったのか?」
ストレートな質問にはビクリと肩を揺らした。黄泉は困ったように頭を掻いて言った。
「俺の大将がお前を生かした。だから、連れてきた」
それだけだ、と答えた相手には俯いたまま反応を見せなかった。
「何であいつがお前を生かしたかは、本人に聞くんだな。俺は知らない」
何の反応も示さない相手に、黄泉は大きく息を吐くと立ち上がった。
「飯くらい、食っとけよ」
ガチャン、と扉が音を立てて閉まった。
が顔を上げると傍にはパンと果物と水がおいてあった。
「炎華・・・」
抱えた膝に額を押し付けた。
・・・これから、どうすればいい?
ただ一人、家族を失い、生き残ったはこれからの事を考えた。
盗賊に歯向かい、逃げるか。盗賊に従い、生きるか。
従うと言っても、何をされるかわからない。
男の盗賊の中に居る中、女であるにとって一つの可能性として考えなければいけないこともある。
いやだ・・・
考えただけでもゾッとしたはギュッと自分を抱きしめた。
『生き延びろ、』
父の最期に残された言葉は、とても最後に残された者には辛い言葉だった。
「私は、どうすればいいんです・・・?」
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
ガチャ、と開いた重い扉は、外から違う匂いのする空気を部屋に入れた。
「また食ってないのか」
溜息を吐きながら部屋の中に入った黄泉は、手のつけられていない食べ物の乗ったトレイを見る。膝を抱えたまま座る少女は、何の反応も返さない。
「別に毒なんか入ってないぞ」
頭を掻いて、黄泉は不思議に思った。
目の前で食事に手をつけない少女は、死を望んでいるように見える。しかし、反対に、その雰囲気はまだ生を望んでいるようにも見える。
「おい」
返事くらいしろよ、と溜息を吐く。
人質として捕られていたのか、出会ったときの少女は両手両足に呪符のついた鉄の塊をつけていた。無理矢理呪符に反して力を使ったのは明らかだった。体中、傷だらけで、血だらけで。それでも、怒りに満ちた眼であの蔵馬に向かっていった。怒りを露にしたその眼が最初は蔵馬の傍に落ちていた塊に向けられていたことに、黄泉は気付いていた。姉妹か親友か、絆の強い関係だったのだろう、と黄泉は大体の予想をしていた。
「死にたいのか?」
黄泉の言葉にビクッと肩を揺らしたの眼に強い光が戻った。
そこで黄泉は、やはり、と心の中で呟いた。ゆっくりとが顔を上げ、黄泉を見た。美しい、と黄泉は思った。の血のように赤い瞳を。死を望むようで、生きようとしているその眼が。否、生きなければいけないという強い光を持ったその眼が。
「殺すなら、殺せばいい」
「生憎大将が何も言ってないんでな」
黄泉が立ち上がって扉の前で振り返った。
「まあ、お前に死ぬ気なんかないだろうがな」
ガチャン、と閉じられた扉をはしばらく見つめていた。
そして再び戻ってきた黄泉は確認するようにトレイの上を確認する。
「お、食ったな」
よしよし、と一人納得したように頷く黄泉とは目を合わさなかった。
「次はもっと食えよ」
一口か二口分しかなくなっていない食事を持って、黄泉はそういうと部屋を出て行った。扉が閉まるとはそっとそちらに視線を向けた。そして、ゆっくりと自身の手を見る。傷はずいぶんと癒えている。ぎゅっと拳を作った。
<三>
UP 05/01/14