−SCENE 05−
−雑誌の女−
は歩いていると一つのスポーツショップが目に入った。
初めて見つけた店には興味を惹かれ、自然とその店の中へ足を進めていた。
中には数人の客と二人の店員が居た。ふと本の並んだ棚の中に一つの雑誌を見つけ、驚いた。そして、見覚えのある名前が見出しに書かれているそれに手を伸ばそうとすると、突然声をかけられた。
「あ、さん!」
少し高い声に自分の名前を呼ばれ、は顔を上げ、雑誌へ伸ばしていた手をパッと引いた。
振向いた先には、壇と南が立っていた。
「こんにちはです!」
驚いたような表情の南を一瞬見た後に、壇を見たは、こんにちは、と返した。
試合会場で会った南は、伴田と居たのを思い出しながら、少し雰囲気が違う事に戸惑った。
「さんもよくここに来るんですか?」
「いいえ。今日が始めてです」
「僕は、部活のためによく来るです!」
「そう」
『とても強いテニスプレイヤーなんですよ』
自身の顧問が言った台詞が頭の中で聞こえた。そして、疑問に思う。
一体、どれくらい強いんだろう?
伴爺が言うくらいだから、相当なはず・・・
色々聞きたい衝動を抑え、南は、その雑誌、と先程が手にしようとした雑誌を指した。
「よく買うんですか?」
「は?・・・いいえ」
「あ!」
の答えの後に壇がその雑誌を見つめながら、わかった、と声を上げた。
「これ、城西湘南のコーチがでてるです!だからですね!」
偵察という意味で言った壇の言葉には一瞬意味がわからないように眉を寄せ首を僅かに傾げた。
「『城西湘南中学校、テニス部顧問が語る』」
の見覚えのあった名前の下に書いてあった見出しを声に出して呼んだ壇には、ああ、とようやく理解したように頷いた。
中学校のコーチなんてやってたんだ。意外・・・
珍しく周りが見えていなかったことに気付き、は心の中で苦笑した。
「インタビューぐらいで何か得られるとは思いませんがね」
「え?」
「読んでも害はないでしょうから」
不思議な理由だな、と思いながら南と壇は頷いた。
「それでは私はこれで。伴田先生によろしくお伝えください」
は雑誌を手にするとレジに向かった。
残された二人はお互いに目をあわせ、肩を竦めた。
「『最高の作品の育て方』ねぇ・・・」
相変わらずだ、とは記事の見出しを読んで息を吐いた。
今度の試合では会うことを避けられない。
人前で親しく話すのが嫌いなに気遣い、あの伴田でさえ出来るだけ知り合いの少ない場所でに話す。しかし、昔を良く知る彼女はの考えなど構わず、話し掛けてくるだろう。考え方は違えど、相手のコーチとしての実力を認めている相手を邪険に扱うのが苦手なにとって、雑誌に写る華村は悩みの種だった。
「試合、行きたくないな・・・」
は、思わず溜息をついた。
絶対に笑顔で、あら久しぶりねぇ、とか言うのよ、あの人は。
それで隠そうとしてるってことに気付いていながら、貴方達このコが誰だか知らないの、とか嫌味を言って全部暴露するんだわ。
心の中で妄想に近い予想をしながらは毒づいた。
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fix 02/18/14