−SCENE 07−

−信頼−



「うぃーっす」

は、珍しく一番最初に自身に挨拶したリョーマに驚き、何か意味があるのだろうか、と思いつつも答えた。

「・・・おはようございます」

リョーマは、の顔をしばらく見つめると、堀尾達に呼ばれ、歩き出した。
一瞬不思議に思いながらも、スミレに呼ばれたため、すぐにリョーマへの疑問は消えた。
リョーマは、がスミレに向いて視線を感じなくなると、チラリとを見た。



『越前リョーマ君ね』

ニヤリと笑った相手は、城西湘南中の顧問、華村葵だった。
雑誌など他人に興味を持たないリョーマからすれば、もちろん彼女は知らない人間だ。

『やっぱり、あの子が気に入っている事はあるわね』

ふふ、と笑いながら華村はリョーマを見た。

『一流の選手である事と、一流のコーチである事は別。そうは思わない?』
『は?』

突然何を言っているんだろうか、とリョーマは眉を寄せた。
しかし、相手がニヤリと笑うと、ふと自身のマネージャー兼コーチを思い出した。

『私は一流の選手ではないけど、一流のコーチではあるわ』

彼女と違って、というような華村の笑みにリョーマは、再び彼女を思い出した。

『私なら貴方を完成させる事が出来るわ』



「うわー、あれ誰ー?」

大きな声で訊いた菊丸の視線の先をそっとが見ると、そこには華村が立っていた。
菊丸は華村が美人だと指摘すると、リョーマは、でも、と返した。

「あの人、変な人っすよ」
「へ?」

きょとんとする菊丸と桃城の隣に立つリョーマをはそっと見た。

「ナンパされたっす」
「えええ〜!?」

僅かに目を見開いたをリョーマはさりげなく見た。
リョーマから視線を外したは手に持っていたノートを開いていた。



『完成って事はさぁ』

あの人ならどんな風に答えるんだろう?

ふとリョーマの頭の中に真っ直ぐと前を見る冷静な青い目が浮かんだ。

『そこで終りって事でしょ?』

後ろに立つ相手の生徒達が睨んだ事に気付きながらも、挑発的に口角を上げた。

『あの人多分、完成って言葉、自分でも知らないよ』

驚いたような表情になった相手に背を向けて階段を上がった。

『あんな信頼関係があるなんてね』

後ろで眼鏡を上げて、嬉しそうに笑った華村の言葉をリョーマは聞くことがなかったが。



「ナンパって!マジかよ!」

相変わらず驚いたままの桃城達に、そうっすよ、と小さく答えてリョーマはその場を歩き出した。

「何か?」

傍に立ったリョーマに目を向けずにが訊いた。

「あの人、一流のコーチじゃないって言ったっすよ」

は、手にしていた紙から顔を上げた。

「それが?」
「言いかえさないの?」
「私は別に一流のコーチになろうなんて思っていませんから」
「ふーん」

真っ直ぐと見つめるリョーマには、まだ何か、と問うた。

「別に」

リョーマは簡単に言うと、まあ、と続けた。

「負けるつもりないし。恥はかかせないと思うけどね」

意外なリョーマの言葉には僅かに目を開いてリョーマを見た。

「ま、そんな心配してるとも思わないけど」

そう最後に言うと、リョーマは背を向け自動販売機の方へ歩き出した。
目を見開いたまま、は歩き出したリョーマの背中を見つめた。





06−雑誌の男  08−挑発


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fix 02/18/14