−SCENE 13−

−隠し事−




「・・・なんですか?」

教室でずっと感じていた視線は放課後の部活にまで続き、耐えられなくなったは眉根を寄せて問うた。

「いや、さんもボーリングするんだなぁ、って思ってね」

笑みを浮かべたまま答えた不二には怪訝な顔をした。あんまりそういう場所にいるイメージがないから、と続けた相手に、イメージってなんだろう、と思いつつも、そうですか、と返した。

「そういえば、あそこに芸能人が丁度来てたらしいよ」
「・・・そうですか」

頭の中で、知ってます、と返しながらも蒼音はもう一度手の中にある本に目を向けた。

「すごく有名なバンドだったんだって。MIRAGEってバンドなんだけど。さん、知ってる?」

知ってるも何も一緒に居たのだが、は動揺せず不二に目を向けた。

「菊丸さんたちがよく話していたバンドですね」
「そうだね」

いつも傍で菊丸や梅子がおしゃべりしている内容を聞いているのか聞いていないのか解らないような態度で居るだが、意外と聞いていた事実に不二は笑みを深めた。

「・・・なんですか?」

何かを含んだ笑みを前に、は警戒したように問うた。

「会話に参加してないようで、ちゃんと聞いてるんだなってね」

は表情を変えることはなかったが、視線を逸らした。

「後から聞いていなかったというクレームを受けるのも困りますから」

もっともらしいことを言う相手に、不二は、素直じゃないなぁ、と心の中で呟いた。

「ボーリング、誰と行ってたの?」

再び先日の話題になり、は溜息をつきたくなった。

「不二さんには関係ないと思いますが」
「デート?」
「違います」
「じゃあ――」
「ほら、集合!」

さらに続きそうだった不二の質問は、スミレの掛け声によって遮られた。は、ほっとしたように一息吐くと、マネージャーとしての仕事を始めた。しかし、一度離れたからと言って、不二が諦めるはずもなく、質問攻めは部活後に再開された。

「ねえ、さん」
「・・・なんですか?」

帰ろうと足を進めたと同時にかけられた声に、は嫌な予感を感じながらも答えた。

さんって、どこに住んでるのかな?」
「は?」

予想外の質問に、は一瞬きょとんとしてしまった。一方、部室から出てきた菊丸、大石、桃城は、聞こえてきた話題にぎょっと目を見開いた。

「皆も知りたいみたいだし」
「なんですか、それ」

意味がわからないという風に怪訝な顔をしたとは反対に、不二は笑みを浮かべたままだった。そして、は周りが帰ろうとせずに自分たちに注意を向けていることに気付いた。

「・・・乾さんに聞けば、わかるんじゃないですか?」

そんなの言葉に、ふむ、と大石の後ろに立っていた乾はクイと眼鏡の位置を直した。

「それが、わからないんだ」

菊丸が大きく乾の言葉に反応を示した。

「にゃんだよ、乾ー、この前知ってるって言ってたじゃんか!」

その反応には、やっぱり調べてたのか、と頬を引きつらせた。

「それが、実際に行ってみたら、家じゃなかったんだ」
「どういう意味っすか?」

おそらく学校の資料で調べた住所のことだろう、と当てをつけたは、まさか実際に行ったなんて、と心の中で溜息をついた。
乾の言葉に桃城が問いかけた。

「住宅ではなく、事務所だったんだ」
「事務所ぉ?」

なんのこっちゃ、と桃城と菊丸が目を合わせた。

「奏一さんの事務所ですよ」

は、諦めたように告げた。

「保護者の連絡先を書くように言われたので」

その言葉に一同は、以前テニス部にやってきた奏一の姿を思い浮かべた。

「いや、お前、普通自宅の住所書くだろ」

呆れたように桃城が言うと、はけろりと、そうですか、と返した。

「っていうか、学校の用紙で書くのって家の住所以外にあったっけ?」
「親の勤務先とかは、書いたような気が・・・」

菊丸の疑問に、桃城はうーんと腕を組みながら答えた。

「じゃあ、やっぱりさんに聞かなきゃわからないよね」

僅かに脱線した話題を戻す不二に、は困った。

「大体、聞いてどうするんです」
「今度遊びに行こうかと思ってね」
「は?」

にこにこと返された答えに、は間抜けな声をあげた。

「なんですか、それ」

は、呼んでもいないのにくるんですか、と言いたげな顔をした。

「何も面白いものなんてありませんよ」

トーナメントのために奏一が出かけている今、家にいるのは一人だった。男子中学生の興味を引くものなどないだろうと思ったは、来たいという不二の言葉が理解しがたかった。

「奇抜な色などの外観的特徴が強い家というわけでもありません」

若干ずれた答えのの言葉に、なんだそりゃ、と一同は心の中でつっこみ、不二はクスリと笑った。

「そんなもの期待してないけど。そうだね。コーチと選手の信頼関係を深めるためにかな?」

そういわれてしまえば、も無下に出来るわけもなく、困ったように視線を不二から外した。

「もし、見つけられたら、お茶でも出しますよ」

そこまでして来たいとは思わないだろうと思い、はそう言うと帰り支度を始めるために歩きだした。
の姿が見えなくなると、やれやれ、とそれぞれがまた動き出した。

「あいつ、なんであんなに隠そうとすんだろ?」

菊丸は不機嫌そうに呟いた。それはその場にいた誰もが思ったことだった。

「まあ、大勢で来られたら困る、って思ったんじゃないか?」

大石がフォローするように言うが、納得できない様子で菊丸は頬を膨らませた。

「手塚あたりなら知ってそうだけどね」
「教えないだろうな」

不二の言葉に乾が言うと、だね、と同意した。国際電話して教えてもらえないんじゃね、と他の手立てを考えるしかないと不二は息を吐いた。

「にゃー、不二、なんでそんなにのことかまうんだよー」

菊丸が問うと、不二はにっこりと答えた。


「隠し事ってされると、暴きたくなるじゃない?」




12−蜃気楼  14−招待


UP 02/18/14