−SCENE 14−

−招待−




「コンクール?」

梅子が手に持っているチケットの文字を菊丸が読んだ。

「今度、このコンクールに出ることになったの」
「すごいにゃー、梅ちゃん」
「へえ」

感心したように菊丸と不二が声を出すと、梅子は、いやいや、と返した。

「出るだけで、入賞できるかわからないから」
「梅ちゃんならきっと大丈夫にゃ」

元気付けるように菊丸が言うと、ありがとう、と梅子は笑った。

「楽しそうだね」

梅子の様子から不二が言うと、梅子は大きく頷いた。

「実はね、このコンクールの審査員に、あの惺さんと静琉さんが来るんだって」
「すごいじゃん!」

おお、と驚く菊丸に、うふふ、と笑った。

「それでね、よかったら、菊丸君と不二君、見に来ない?」

二人の分のチケットなの、と先ほど見せたチケットを差し出した相手に、菊丸は、梅ちゃんに誘ってもらえるなんて、ととても嬉しそうに笑った。

「行く行く!」
「貴重なチケット、いいのかな?」
「もちろん!」

通常ならこういうチケットは買うものだと知っている不二が聞くと、先生がくれた分だから気にしないで、と梅子は返した。

「あ、ちゃん!」

教室に戻ってきたを見て、駆け寄った。

「あのね!今度コンクールに出ることになったの!」
「・・・よかったですね」

菊丸の視線を感じて、居心地の悪さを感じながらも、は返した。

「それでね、ちゃんにも来てほしいの!」

差し出されたチケットを見たは、僅かに目を見開いた。

「・・・あいにく、その日は用事がありますので」

断りの言葉に、梅子はがっくりと肩を落とした。

「そっかあ・・・」

その姿を見て、不二はクスリと笑った。

「ふられちゃったね、姜さん」
「うん・・・」

ふられたって、と呆れたようには心の中でつっこんだ。

「そろそろ次の授業、始まりますよ」
「あ、次移動教室だった!」

の言葉に、梅子は慌てて教室を出て行った。
その様子に、やれやれ、と息を吐いたを見ていた不二は、ふふ、と笑った。

「姜さん、さんに片思いしてるみたいだね」
「・・・何言ってるんですか」
「なかなか想いは通じないみたいだけどね」

以前よりもかまってくるようになって来た相手に、はどう対応したらいいのか困っていた。

「姜さんと僕、片思い仲間だからね」
「ほら、お前ら座れー」

菊丸がぎょっとして不二を見ると同時に、は怪訝そうに眉根を寄せた。教師の登場により、その会話はそこで終わりを告げた。

「先生まだチャイム鳴ってないし」

まあまあ、と生徒を宥める教師に視線を向けながらは、助かったかも、と心の中で溜息をついた。そして、先ほどのチケットを思い浮かべた後、数日前の出来事を思い出した。






『今度コンクールの審査員やる事になったんだよね〜』
『審査員?惺と静流が?』
『いやー、どうしてもって頼まれちゃってさ』

参ったよね、と目の前の双子が声を合わせて言うと、は、それで、と話の先を促した。

も見に来てよ』
『そうそう、久しぶりにさ!』

なんで私が、と言いたげなに、惺が笑った。

『俺たち、特別審査員だからさ、演奏もしてくれって頼まれてんの』
『ああ』

なるほど、と納得したは、ほほ笑んだ。

『そうね、二人の演奏、最近見てなかったし。せっかくだから行かせてもらおうかしら』
『やった!』
が来るならちゃんと練習しよっと』

静流の言葉に、は呆れたように、いつも練習しなさいよ、と返した。

『じゃあ、、絶対来てね!』

楽しみにしてるよ、と声を揃えた双子に、は柔らかく笑んだ。






「まさかあれに出るとはね」

ちいさく呟いたの声は、授業を始めた教師の声によって、聞いているものはなかった。






13−隠し事  15−コンクール



UP 03/20/14