−SCENE 15−
−コンクール−
「不二ー!こっち、こっちー!」
「やあ、英二」
菊丸の呼びかけに、不二は片手をあげて答えた。
「クラシックに英二がそんなに興味あるなんて知らなかったな」
うきうきする菊丸に、不二がくすりと笑った。
「だって、梅ちゃんが誘ってくれたんだぜ、そりゃ楽しみっしょ」
「よかったね」
「それにMIRAGEの惺も見れるし」
「そうだね、僕も特別演奏が楽しみだよ」
パンフレットに視線を落として、不二は惺と静流の演目を読んだ。
「菊丸君!不二君!」
呼ばれた二人が振り返ると、ピンクのワンピースを着た梅子が立っていた。
「梅ちゃん!」
「こんにちは、姜さん」
「来てくれてありがとう」
「かわいいにゃ〜」
制服ではなく、奏者としてドレス姿の梅子に菊丸は嬉しそうに言った。褒められた梅子は、ありがとう、と言ってクルリと一回転して見せた。
「お姉ちゃんが選んでくれたの」
「似合ってるにゃ〜」
えへへ、と笑った相手に、不二が、そういえば、と言った。
「姜さん、ここに居て大丈夫なの?」
「始まったら行くよ」
裏で練習するのは出番の直前まで出来ないのだと説明された。
「それじゃあ、席の方に行こうぜー」
「そうだね」
三人並んで座ると、梅子は、ふー、と緊張を解すように吐いた。
「私の出番が終わったら、またこっちに出てくるから」
練習できる時にはすっといなくなってもまた戻ってくると告げる梅子に、菊丸は、わかった、と頷いた。不二はうきうきしている菊丸の姿を見て笑った。
「演奏始まっても英二これくらいテンション高くいられるかな?」
「にゃんだよ、不二ぃー」
「いや、寝ちゃわないかな、ってね」
「あはは、確かに菊丸君ってクラシック聞いたら眠くなっちゃいそうな感じするね」
梅子は楽しそうに笑うが、菊丸は、そんなことないよー、と頬を膨らませた。
「大丈夫、たまに本当に寝てる人いるもん」
「マジで?」
「マジで」
うちのお父さん、前に来た時寝てたよ、と梅子は言うと、内緒だけどね、と人差し指を唇にあてた。
「そういえば、さんにあげる予定だったチケットはどうしたの?」
不二の問いかけに、梅子は困ったように開いている隣の席を見た。
「実は、家族にあげるつもりだったんだけど、皆休日出勤で来られないんだって」
「そっか」
「残念だね」
「だから二人が来てくれて嬉しいよ」
その分緊張もちょっとするけどね、と照れたように梅子は言った。
「でも、ちゃん、来れたらよかったのになぁ」
「そ、そうだにゃ・・・」
「予定があるんじゃ、しょうがないよねぇ」
「そうだにゃー・・・」
そこで、会場の明かりがゆっくりと暗くなった。
「あ、始まるから、私行ってくるね」
小声で梅子が言うと、不二は、片手をあげて、またあとで、と口だけを動かした。菊丸はこぶしを作って、がんばってにゃ、と小さな声で返した。
UP 03/20/14