-SCENE 17-
-特別演目-
「次は、特別演目。ゲスト審査員の蓮彌惺さんと静琉さんの兄弟演奏の予定でしたが、諸事情により、静琉さんがいらっしゃらないため、急遽、惺さんと、蓮彌兄弟のご友人に演奏していただきます」
司会者の女性の言葉をきっかけに、蒼紫と惺がステージの中央へと出ていった。
突然現れた蒼紫の姿に、会場の皆が息をのんだ。スポットライトの当たる中央に立つと、蒼紫は軽く膝を折り、目を伏せて、頭を下げた。それに続いて、惺も手を胸に当てて、軽く頭を下げた。
そして、惺と眼が合い頷くと、蒼紫はバイオリンを顎と肩で挟んだ。スッと蒼紫が息をすった音が合図になり、二人の演奏は始まった。
★☆★ ☆★☆ ★☆★
最後の曲を弾き終わると、蒼紫は体の硬さをほぐすように一息吐いた。そして、演奏の始まりと同様、軽く膝を折って頭を下げると、会場は金縛りが解けたかのように拍手した。惺が蒼紫を右手で示し、拍手の動作をすると、蒼紫は再度頭を下げた。そして、頭をあげると、惺がしたように、スッと左手で惺を示した。それに合わせて、惺は胸に手を当てて、頭を下げた。拍手はさらに大きくなり、会場の全員が立っていた。そして、惺のリードで、蒼紫はステージの袖へと歩き出した。
「お疲れ様です!」
「おつかれさま」
「おつかれー」
ステージから降りれば、スタッフが笑顔と拍手で迎えた。
蒼紫は、ふー、と息を吐いた。
「お疲れさまー」
いないはずの人物に蒼紫は、目を見開いた。
「静琉」
超よかったよー、と言う相手に、惺が、あったりまえじゃん、と返していた。
「・・・どこから見てたの?」
「そりゃあ一曲目からに決まってるじゃん!」
蒼紫の問いかけに静琉がそう答えると、蒼紫は自分の耳を疑った。
「一曲目から?」
「私が蒼紫の演奏見逃すわけないじゃん~」
誇らしげに言う相手に蒼紫は、バイオリンを持つ手に力が入るのを感じながら、ひくりと頬をひきつらせた。怒りたい衝動を抑えてそのまま楽屋へ向かおうと足を進めた。
「蒼紫」
廊下に出ると、跡部がバラの花束を持って迎えた。
「景吾さん」
「なかなかよかったぜ」
「ありがとうございます」
ほら、と手渡された花束を受け取ると、蒼紫はふわりと微笑んだ。その顔に、わずかに驚きながらも、跡部は嬉しくなり、ふ、と笑んだ。
「景吾くん、やっほー」
「いいものがおかげで見れましたよ」
「だろだろ」
その三人の態度で、謀られた、と気付いた蒼紫は、一気に力が抜けたような気がした。
「貴方達・・・」
穴を開けたのが原因で、仕事が減ったり亡くなったりしたら、と心配したのが無駄だったのか。蒼紫は、はあ、とため息を吐いた。
「お前が演奏する姿を見たかったんだ」
跡部が言うと、蒼紫は苦笑を浮かべた。
「景吾さんが言えば、いつでも弾きますよ」
なにもこんなステージじゃなくても、と告げる蒼紫に、惺と静琉は、それじゃあ自分たちが聞けない、と膨れた。
「二人の希望は、知りません」
つんとした蒼紫の様子を見て、くく、と跡部は笑った。
「どっちが一緒に弾くかで、じゃんけんしてたぐらいだからな。二人も蒼紫と弾きたかったんだぜ」
そう言われて困ったように蒼紫は跡部を見上げた。
「景吾さん・・・」
「ま、今度は俺の家で弾いてもらうとするか」
そういう相手に、蒼紫は微笑んだ。
「わかりました」
「この後の予定は?」
「ありませんけど」
「なら飯でも行くか」
跡部の誘いに蒼紫が答える前に、惺と静琉は、賛成、と答えてた。
「ちょっと、君たち、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ!」
突然聞こえた声に、四人の視線はそちらへ向いた。
「お友達がいるんです」
「だめだめ、コンクール参加者の君だって、ここから先は立ち入り禁止なんだよ」
スタッフと揉めている人物に蒼紫は、目を見開いた。
「青学の不二と菊丸じゃねーの」
跡部がそういうと、ハッと蒼紫は表情を硬くした。そして、スタッフと揉めている梅子と一緒に居るのは不二と菊丸が、自分たちに蒼紫達の視線が向いてることに気付いた。
「すいません、彼らは通してあげてください」
蒼紫は、スタッフへ近づくと、そう告げた。振り返ったスタッフは、はい、と頷いて通せんぼしていた体をどけた。
「蒼紫ちゃん!」
梅子は、蒼紫の前へ駆け寄った。目を輝かせている相手に、蒼紫は居心地悪く感じた。
「・・・ここではスタッフの皆さんの邪魔になりますから」
そう言うと蒼紫は踵を返して歩き出した。それを合図に、惺と静琉は楽屋の方へ先に歩き出し、蒼紫が隣まで来ると跡部も歩き出した。そんな四人の後ろ姿を前にして、梅子、不二、菊丸は少し早足で歩きだした。
UP 03/20/14