−SCENE 20−

−部活後の会話−



「合宿?」

手渡された紙に、はきょとんとした。

「乾がどうしてもと言っていてな。レギュラーの強化合宿をしたいそうなんじゃ」

以前スミレも行ったことがあったテニスコートがある別荘を借りたいという話だった。はずいぶん長いこと自分では使ってない別荘を思い浮かべた。使わない分貸別荘にしていたそれは、今は空いている。レギュラーだけならば問題ないだろう。

「別に、かまいませんが」
「そりゃあよかった!助かるよ!」

にこにこと笑ったスミレに思わず笑みがこぼれる。

「アタシは行けないんだが、がいれば、あいつらも馬鹿やらんだろう」

行かないのか、顧問なのに。思わず出かけた言葉を飲み込んでは、聞き返した。

「スミレさんは行かないんですか?」
「ああ、ちょうど教師の集まりみたいなのがあってね」
「はあ」

なんだそれは、と思いつつも、仕事関係なら仕方がない。は、提案された日程を思い浮かべ、それまでに別荘の掃除を頼んでおくことにした。

「お前さんだけに負担をかけるわけにはいかんからね。桜乃に手伝わせるよ」

何もないところで転んでいる姿が頭に浮かんだは、溜息を吐いた。おそらく一緒に騒いでる友人も来ることになるのだろう。はやはり掃除は自分たちでやらせるのではなく、きちんと業者に頼むことに決めた。

「うちのだって言わないで下さいよ」
「ああ、わかってるよ」
「現地集合というわけにはいきませんよね」
「当たり前じゃ」

呆れたような顔のスミレに、は、うーん、と呟いた。

「バスと電車で乗り換えていくのが普通だろう」
「山の中ですから、不便ですよ」

駅から遠い上に、別荘のそばにバスは停まらない。一番近いバス停から歩いても一時間ほどかかるかもしれない。レギュラーだけならばトレーニングという名目で許されるが、さすがにスミレの孫娘にその距離を歩かせるわけにはいかない。

「レンタルバスですかね」

予算があるんだろうか、と思い、はスミレを見た。

「まあ、なんとかなるじゃろ」

適当な返事に呆れつつも、手配しておきます、と返した。

「レギュラーへの知らせは?」
「まだいっとらんよ。場所が決まってないのに言うわけにはいかんじゃろ」
「では、そちらはスミレさんが」
「ああ」
「裏方はやっておきます」

よかった、と安心したように笑ったスミレに、は笑みをこぼした。

「そういえば、この間、お前さん、裏方じゃなく舞台に立ったそうじゃないか」

コンクールの話を出され、は苦笑した。

「あの双子と景吾さんにだまされたんですよ」
「景吾?」
「氷帝の跡部景吾さんです」
「ああ」

昔から知り合いだったことを思い出したスミレは笑った。目の前に立つ少女は個性の強い連中に好かれる。

「アタシも行けばよかったなあ」
「なんでですか?」

クラシックに興味があったとは知らなかった、と言いたげなをスミレは笑った。

「お前さんが演奏する姿なんてめったに見れるもんじゃないだろう?」
「まあ・・・」
「今じゃラケットばかり握ってるんだからね。たまには違うものを持つところを見てみたかったのさ」

困ったようなの顔に、スミレは本当に困った子供だと思った。もっと子供らしくすればいいのに、と。

「・・・それでは、手配しておきますから」
「ああ、頼むよ」

はそういうと職員室から出ていった。

「子供らしくさせてやらないのは、大人わたしたちの方か」



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UP 04/03/14