−SCENE 28−

−暴かれたこと−





「おかえりなさい!」
「おかえりなさい!リョーマ様!」

を先頭にジョギングから帰ってきたレギュラーの面々を桜乃と小坂田は迎えた。それぞれのドリンクを渡していった。

「迷わずに帰ってこれたっすねー」
「ランニングに行って、帰ってこれないとか洒落になんねえだろうが」

桃城の言葉に海堂が、馬鹿が、と言うと、二人はいつものケンカが始まった。それを河村がなだめるように声をかけていた。そんな騒がしい集まりとは反対に静かな方へと視線を動かした。

先輩すごいなぁ」

桜乃はぽつりと少し離れたところでドリンクを手にしているを見て呟いた。レギュラーの面々が汗をだらだらとかいているのに、の額には少ししか汗が見えない。

「山道のジョギングはけっこう来るね」
「道が平坦じゃないからね」

そばで大石と不二が話すのを聞いて、桜乃はを再び見た。やっぱりすごい、と心の中で呟いた。は、今来たコースを制限時間内に走るように、と次のトレーニングメニューを発表した。そして、すたすたとは家の中へと入って行った。それを桜乃と小坂田は追いかけた。

「お昼作るんですよね!」
「手伝います!今朝もリョーマ様に手料理を作れなかったんですから!」

ふん、と鼻息を荒くして小坂田がいった。
数時間前の話だ。桜乃と小坂田が起きると、キッチンからはいい匂いがしていた。リビングへ入ると、大石と河村がソファでゆっくりとしていた。キッチンをみると、が立っており、慌てて手伝うと申し出たが、すでにできているという答えが返ってきた。味噌汁と焼き魚とほうれん草のおひたしとご飯。和風メニューだった。
好きな人に自分の手料理を食べてもらいたいというのは、いわゆる乙女心というやつだろう。は冷静に思った。

「悪いことをしましたね」

が謝ったことにぎょっと二人は目を張った。

「晩御飯は、二人にお願いしましょう。私が手伝います」

献立を決めればいいと暗に言うに、小坂田は目を輝かせた。

「お昼は、何作るんですか?」
「サンドイッチを」

昨日の晩や朝とは打って変わってシンプルだと思った桜乃は、どうして、と聞いていた。

「外で、簡単に食べれるものがよいでしょう」

これは強化合宿なのだ。トレーニングを考えると片手でも食べられるようなものがいいのだ、と気付いた。やはり気遣い上手なのだと、レタスを冷蔵庫から取り出すを見て思った。

「うーん、なーい」
「ともちゃん?何か探してるの?」

戸棚をあけ出した、小坂田に桜乃が問うた。

「ツナマヨ作ろうと思ったんだけど、ないの」

ことりとツナ缶がテーブルに置かれた。

「え?」
「ツナ缶」

戸棚から見つけ出したらしい。小坂田は、やった、と喜びツナマヨを作りだした。桜乃は、ふと思い出していた。は、いくつ戸棚を開いたか。一つだけだった。一発で当てたの、すごいな、とのんびりと思った。
大量のサンドイッチが出来上がり、それらの並んだ大皿を持って、外へ出た。騒がしい声が聞こえ、二人が顔を見合わせた。

「あれ?先輩たちもう帰ってきたのかな?」
「えー、はやくない?!リョーマ様のお出迎えできなかった!」

ショック、という小坂田をよそに、はそうでもないと思った。時間制限通りに帰ってきたのだ。ばてているころだろうと思っていたのだが、騒がしいことから意外と体力は余っているのかもしれない、と呆れた。
三人は外にあるピクニックテーブルに皿を並べてから、皆の声が聞こえる方へと向いた。

「濡れんだろうが!てめえ!」
「水鉄砲つーのはそういうもんだろうが!ばかか!マムシ!」
「うわっ、つめて!」
「英二やめろって!」

どうやらホースと一緒に水鉄砲を見つけたらしい。水鉄砲といっても、大きなものだ。ウォーターガン、とかいうおもちゃだったとは思い出した。結構な勢いで、遠くまで水が飛ぶのだと奏楽と奏一が購入したものだった。そういえば、置きっぱなしだったのか、とははしゃぐ面々を見た。

「すごーい!ウォーターガン!」
「うりゃ!」
「きゃー!」

桜乃と小坂田も混ざって水遊びを始めた。

「お昼出来たんですけど」

呆れたように、が言うとホースを持ってた菊丸がそちらを見た。

「ふっふっふっ!ここで会ったが百年目!」
「は?」

変な台詞にはきょとんとしたが、ホースの口が自分を向いていることに気付き息をのんだ。

「うりゃ!」
「ッ!ちょ、やめてください」

シャツが身体にひっつく感触に不快感を覚えながら、はやめるように言う。だが、菊丸はいつも口で勝てない鬱憤を晴らすように、水をかけていく。

「こら、英二!」
「いいじゃないっすか、大石先輩」
「うわっ!こら!桃!」

止めようとする大石を桃城がウォーターガンで攻撃した。

「菊丸さん!」

珍しく声を大きくしたに、菊丸はけらけらと笑った。子供か、とつっこみたくなるが、それは前日同様子供だったと思い直す。しかし、細めていた目に水が入り、息をのんだ。

「いたっ」
「やめろ!英二!」

ごろごろする感覚に顔をそむけた。大石は、が痛がる声に気付き、声を荒げた。桃城からの攻撃はすでに海堂へと向いており、大石は慌ててへ近付いた。

「にゃんだよー、おおいしぃー」
さん、大丈夫?!」
「ッ!だ、大丈夫ですから」

の肩をぐっと掴んだ大石は、目にゴミが入ったのでは、と思い慌てて目をみせるようにいう。菊丸は、やりすぎた、と血の気が引いた。自分は何度失敗するのだろう、と。いつの間にか、周りは静かになり、と大石のいいあいだけが響いた。

「大丈夫ですから」
「だめだ!ゴミが入ってたら、目に傷がつくだろ!失明したらどうするんだ!」

顔を隠そうとするの手を、大石はぐいと引っ張った。

「ッ!」

薄紫色の目だ。
大石だけではなく、そばにいた菊丸、海堂、リョーマ、桜乃の四人も息をのんだ。その様子に首を傾げながらもへ近付いた、不二、乾、河村、桃城の四人も、唖然とした。

「そ、の目・・・」

ぽつりと大石が呟くと、はバッと顔を横へとそむけた。大石の手の力が緩んだことに気付き、はバッと腕を振り払い、踵を返して、別荘の中へ走って行った。




27−隠したいこと  13−隠し事



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