気付いていても、それを見て見ぬふりをする。
大事な彼女のために。
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roku
ある日を境に、は変わった。仕事が増えただけだといわれてしまえばそれまでなのだが、家にいる時間が減った。そのことにルキアは違和感を覚えていた。
「姉さま、今日は、夜は・・・」
「今日も、まだ仕事が残っていて。ご飯、一緒に食べる?」
食べてからまた仕事に戻るわ、という義姉をルキアは困ったように見たあと、頷いた。
「今日はお帰りになるのでしょうか?」
近頃隊舎に泊まる日も増えていた。今まではどんなに遅くとも家へ帰っていたが帰らなくなったことに疑問を抱かずには居られなかったのだ。
「ええ、今日はどんなに遅くなっても帰るわ。明日は一緒に朝ごはん食べましょうね」
にっこりと笑いかけられると、ルキアの中の疑問は簡単に消えてしまう。
の態度は以前となにも変わらない。ただ仕事が忙しいだけだ。それは隊長である浮竹の体調がよくないことも重なっている。自身の妙な考えは捨てて、ルキアは嬉しそうに笑った。
「はい!」
「ふふ、なにか食べたいものある?明日は私が作るわ」
「本当ですか?うーん」
悩む仕草を見せたルキアに、はにっこりと笑って、それじゃあこの書類十番隊まで届けてくるから、と告げた。
「晩御飯までに考えておいてね」
「はい」
「朽木さん」
「あ、はい!」
は呼ばれたルキアの背を押して、自身は届ける書類を持って十三番隊隊舎を出た。
*** *** ***
白哉は気付いていた。の中で何かしらの変化があったことに。しかし、その理由まではわからなかった。
ルキアの様子から、ルキアへ対しての態度は変わっていないのがわかる。ルキアもなにかが変わったと感じていた様子だったが、ふと浮いた疑問はすぐに消えたように見えた。
十三番隊は元々隊長の体調がすぐれないことが多々ある隊であり、副隊長もいない隊として、部下たちがその分をカバーしている隊だ。三席の二人同様、もそのカバーに大きな力を与えていることは知っていた。しかし、以前はどんなに遅くなろうとも一度は帰宅し、朝食を三人でとっていたのだ。それが突然変わってしまえば、なにかがあると思うのは普通のことだろう。
すくなくなってしまったが、共にいる時間はそんなに違いはない。三人で朝食をとるとき、とルキアが会話をし、時折自身へ話が振られる。そういう部分は変わっていない。元々初夜以来夜の営みはなかった。では何が変わったのか。それははっきりとは、説明できない、あやふやなものだった。その感覚的な違いに、白哉は一人溜息をついた。
「どうかしたんすか、朽木隊長?」
「・・・なんでもない」
不思議そうにする部下を横に、白哉は書類を手にして立ち上がった。
「え、どちらへ?」
「すぐもどる」
短く返せば、はい、と返事があった。
自身の隊舎から瞬歩でたどり着いた先は、十三番隊の隊舎だ。
「く、朽木隊長!」
「浮竹はいるか?」
「は、はい!」
雨乾堂へたどり着くと知っている顔があった。珍しく布団から出ている浮竹の隣には、が座っていた。湯呑みと薬を手にしていた。
「おお、朽木」
どうした、と笑顔で尋ねる浮竹は、から湯呑みと薬を受け取り口に入れた。空になった湯呑みは再びの手の中へと戻った。はその湯呑みを一旦卓の上へ置くと、白哉の分の座布団を用意した。まるで長年連れ添った夫婦のような流れのよさに、白哉は目を細めた。
「今、お茶を用意いたします」
はそういうと部屋を出た。
「どうしたんだ?お前さんがここに来るなんて珍しいじゃないか」
「この書類のことだ」
「ん?」
その書類を見ている浮竹の姿を白哉は観察するように見ていた。ああこれか、と浮竹が話し始めた。
「失礼いたします」
再び戻ってきたが、二つの湯呑みを持って戻ってきた。それをそれぞれ二人の前に置いた。耳は浮竹に傾けながら、白哉の目はを追っていた。
「お、ありがとな。」
「なにかあったら、お呼びくださいね」
失礼します、とはそのまま出ていった。白哉と一度も目が合うこともないまま。
やはり、と白哉は心の中で呟いた。
「ああ、書き直したらまた持って行かせるから」
「そうか」
「わるかったな」
そういうと、浮竹は湯呑みに口をつけた。それにならって白哉も一口飲んだ。
書類の不備をわざわざ指摘しにくるなんて珍しいな、と浮竹は茶を口にした白哉を見ながら思った。
「でも呼ぶか?」
「何の話だ?」
突然の提案に白哉は眉間に皺を寄せた。
「いや、最近アイツよく働いてくれてるからな。家にあまり帰れてないだろ」
頬をかいて浮竹がそういうと、白哉は目を細めた。
「いらぬ世話だ」
短く返すと、白哉は立ち上がった。
「悪いな」
何に対してとはいわない言葉に白哉はなにも返さず、雨乾堂を出た。
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UP 05/22/14