「あんた、なんで」
「早く行きなさい。ルキアを守るのでしょう?」

納得いかないというような表情をした後、サンキュ、と呟いて居なくなった。

どうか、あの子が無事でありますように。



さくらさくさくらのせい
                                       



ルキアの行方がわからなくなったと聞いて、心臓が凍るような思いをした。不安な日々が続いたのち、見つかったという報告があり息を吐いたのも束の間。今度は死神の力を人間に渡したという罪に問われていた。しかも、それを迎えにいったのが白哉だと聞き、は全身が凍った気がした。自分ですらそうなのだから白哉はどう思っているか、と思ったは一人涙を流した。
誰より心配しているはずなのに家に縛られて、知らぬ、と頑なになった白哉には驚いた。そして、自身の出番なのだと思った。朽木の家の者となった今、当主である白哉の命に反するのはよくないが、本人がしたいことができないのだから、とはルキアを必ず助けると心に誓った。ここのところ家に帰らない日が続いたりしたため、自身がこっそり動いていることは白哉にはばれていなかった。
偶然出会った旅渦の少年には、ルキアを絶対に助けて、と告げてそれを逃がした。副隊長たちが戦闘したなど、あらゆる報告が入る混乱の中、は自身が感じた違和感に顔を顰めた。過去を調べても、ルキアと同じようなことをしたことにより極刑を受けた者などいない。なにかがおかしいと思ったは、藍染の遺体が保管されているはずの場所へと足を向けた。その先にはなにもなかった。

「おや、予想外の人間だ」

突然聞こえた声に、は勢いよく振り返った。

「確か、浮竹の隊の子だね」

藍染隊長、と小さく呟いた。面識はほとんどない。ただ穏やかだと評判だった相手が、目の前に立つ人物とは別人のように思えた。

「なにが、おきているのでしょうか」

圧倒的な力の差を感じながらも、はそっと自身の刀に触れた。

「君が気にすることじゃない」
「私は、ルキアの姉です。あの子を救いたい」
「それは問題だ」

背筋に汗が流れたのがわかった。一見にこやかな相手だが、雰囲気は違う。ゆっくり近付く相手には、斬魄刀を抜かなきゃ、と頭では思っていても、身体は動かなかった。

「君は、朽木がなぜ義妹に執着するのか知っているかい?」

が息を飲んだ。その表情に藍染は満足そうに笑った。そして、朽木と結婚したばかりの人物だと確信した。

「知っているのに、彼女を助けるというのか」
「ルキアは、私の可愛い妹です」

声が震えるのは、相手の霊圧のせいだろうか。

「理解しがたいな。自分が朽木の目に入ってるとでも思うのかい?」

の目が揺れた。藍染は面白いおもちゃを見つけたかのように笑んだ。
浮竹の世話係のような女が朽木の妻になったと聞いていたが、藍染は別に興味を持たなかった。特別強いわけでもない。興味をそそられるような相手ではなかった。しかし、目の前に立ったは、興味深い人物だった。自身の死体が見えない人間だった。目の前で多少は押さえてはいるものの自身の霊圧に耐えている。目の前のこと以外に意識を向けながらだ。強い目を持って入ってきた。それなのに白哉の話を出した途端に、の目は揺れた。それが滑稽だと藍染は思った。同時に、あの朽木白哉はやはり妻に対しても朽木白哉なのだと、笑った。

「彼女がいなければ、彼の目が自分に向くとは思わないのか?」

悪魔の囁きだ。

「そ、んなこと、ありません・・・」

嫉妬に狂ってこちらについてしまえば面白いのに、と藍染は思った。

「こんなことをして、朽木から離縁されるとは思わないのかい?」
「かまいません」

意外にも早い返答に藍染は僅かに目を開いた。

「ルキアは、私にとって大事な仲間です。今では家族です。彼女を救えるのなら、そんなのなんでもありません」

迷いのない目に、藍染は不快感を覚えた。

「そうか。残念だ」
「藍染隊長は、いったい、なぜあの子を」
「嫉妬かい?」

にこりとすれば、違います、と即答された。実につまらない、と藍染は心の中で呟いた。

「俺が興味あるのは、彼女自身ではなく、彼女の中に隠されたものだ」

いつもと違う一人称にはぞわりと身の毛が立ったのがわかった。

「さて。おしゃべりもこのへんにしておこう」

藍染が斬魄刀を抜いた。

「君に邪魔をされるのは困るからね」

にこっと笑って振り上げられた刀に、は息を飲んだ。





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UP 05/22/14