さくらさくさくらのせい
                                       



「いきてる」

自分の手を見て、は呟いた。君に邪魔をされるのは困るからね、と笑みを浮かべたまま藍染に攻撃された時、自分は死ぬのだと思った。

「生きていますよ」

声のした方へ顔を向けた。

「卯ノ花隊長」

微笑みを浮かべた卯ノ花が部屋に入ってきて、起き上がろうとするを止めた。

「ルキアは」

が言いかけた言葉に、卯ノ花は目を伏せて何が起きたのかを告げた。藍染、市丸、東仙が裏切ったこと。旅禍が尸魂界を救ったこと。ルキアは無事であること。

「ルキアが無事」

ほっとしたようにが呟いた。そういえば、彼女は朽木になったのだと、卯ノ花は思い出した。

「朽木隊長は重傷をおいましたが」

ハッとは息をのんだ。

「今はゆっくり休んでいらっしゃいますよ」
「ひどい怪我なのですか?」

心配そうにが問うた。

「大丈夫ですよ、命に別状はありません」

たまにはいいおやすみでしょう、と笑った卯ノ花に、は頷いた。

「そう、ですね」

そして、すぐにハッと卯ノ花を見た。

「朽木隊長に、私のことは?」
「いいえ。さんのことはまだ伝えておりません。我々も忙しかったものですから」

早くお伝えするべきでしたね、と謝ろうとする卯ノ花をは遮った。

「そのまま!」
「はい?」
「そのまま、私のことは黙っておいてください」
「起き上がっては、傷に響きますよ」

自分の怪我は恥だ、というに卯ノ花は違和感を覚えた。いくら朽木でも藍染相手に負った怪我を恥だなどと本当に思うだろうか、と。しかし、起き上がろうとしてまで真剣に頼むを前に、卯ノ花は頷くしかなかった。

「ルキアさんには?」

卯ノ花が問うと、は一瞬考えるような顔を見せた。

「ルキアには、伝えてください。きっと心配させてしまいますから」

まるで白哉は心配しないような口ぶりに、卯ノ花は目を細めた。がわずかに顔をしかめ、卯ノ花は、痛むのですね、と先ほどの行為を責めた。

「無理はしないように」

は苦笑した。

「すいません」
「痛み止めを持ってきましょう」

そういうと部屋を出ていこうとした。

「あ、卯ノ花隊長」
「はい?」
「ありがとうございます」

にっこりと卯ノ花は笑った。
卯ノ花が部屋を出たのを確認して、は目を閉じた。



*** *** ***



「姉さま!」

ベッドで静かに座っているの姿を見ると同時に、ルキアはベッドへと駆け寄った。

「ルキア」

跳びついたルキアの背に腕を伸ばした。腹の傷が痛むが、処刑が行われなかったことを実感した。

「卯ノ花隊長から姉さまがここにいると聞いて」
「無事でよかったわ、ルキア」
「おい、ルキア突然走り出すんじゃねえよ」

聞き覚えのある声には、入口へと顔を向けた。あんた、と驚いたように呟いた相手は見覚えがあった。

「こら!姉さまの病室に入ってくるな!失礼だろ!」
「なんでだよ」

入るだけで失礼って、と一護は片眉をあげた。

「どうぞ、かけてください」

傍にある椅子を指すと、どうも、と一護は返した。

「改めまして、ルキアの姉の、と申します」
「黒崎一護だ」

この少年がルキアを救った。は心から感謝していた。

「このたびは、ルキアを救ってくださってありがとうございます」
「い、いや、そんな」

が頭を下げると、丁寧な言葉遣いと柔らかい雰囲気に一護はたじろいだ。

「似てねえな」

ぼそりといった一護を、ルキアは呆れたように見た。

「当たり前だ、馬鹿者。姉さまは、兄さまの妻だから、血のつながりはない」
「は?にいさまの妻?」

数秒してそれが理解できたのか、えええ、と一護は大きな声をあげた。

「白哉のやつ、結婚してたのかよ!」
「だから、そうだといっておろうが!」

わあわあと騒ぐ二人に、は苦笑した。

「ルキア、悪いんだけど、お水貰ってきてくれる?」
「はい!」

ルキアはパッと部屋を出た。二人きりになり、は再び一護に礼をいった。

「本当にありがとう」
「いや、マジで、そんなに礼をいわれるほどじゃねえよ」
「白哉さまは助けたくても、家のしがらみに困っていたから、本当は私が、ルキアを助けたかったのだけど。案の定このざまで」

苦笑しながら告げたに、一護ははっとした。はルキアを救おうとしていたのだ、と。

「藍染隊長に軽くやられちゃったのよ」
「藍染に・・・」
「白哉さまがどうしても守りたかったものを、私は守ることができなかった」

自嘲気味に笑ったに、一護は黙り込んだ。白哉がルキアを守りたいと思っていたことは、市丸からルキアをかばったことでわかった。それが、ルキアの姉が妻だったからだということも、そのあとに知った。

「よい姉になるために。ルキアを守るために、朽木に入ったのに」

そこで一護は、が後妻なのだということに気付いた。
ルキアですら自身の姉が白哉の妻だったことを知らなかったのだ。だが、の態度はまるでそれを知っていたように見えた。

「ルキアには、内緒ですよ。彼女は知らないはずですし。白哉さまも、私は知らないと思っていますから」

倒れていたせいで、ルキアが知っていることを知らないのか。一護は顔を顰めた。

「アンタ、まさか」

扉が開き、ルキアが戻ってきた。そこで一護は口を閉ざした。

「ありがとう、ルキア」
「姉さま。あの、兄さまには、お会いになりましたか?」

ぴたりとが動きを止めた。

「いいえ。私もまだ、動いては行けない状態だから」
「で、では、兄さまは」
「ルキア、白哉さまはご存じないの。だから内緒にしておいてね」
「え!」

なぜ、と驚いた目が問いかけてきた。は苦笑した。

「朽木の嫁が、こんな情けないのでは、白哉さまに愛想尽かされてしまうでしょう?」
「そんな」
「だから、内緒よ」

絶対ね、と念を押すに、ルキアは困ったように頷いてしまい、一護を見た。一護は難しい顔をしていて、ルキアは再び首を傾げた。



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UP 06/01/14