sakurasakusakuranosei
kyu
舞った血に、息をのんだ。自身の体を襲うはずの痛みはない。目の前で舞った血は、自身のものではない。
目の前にある背中からは、神槍が突き出ている。血を吐きだした傷だらけの体は、今この瞬間にできたものでないのだと確信した。
ぐらりと体が揺れた。抱きしめるように、それを受け止めた市丸。不快感。触るな、と口から出かかった。それは私のだ、と。
「ゆめ」
見慣れない天井が視界に広がっている。嫌な夢だ、と心の中で呟いた。
窓を見ると、外はすでに明るくなっていた。ゆっくりと体を起こした。自身の体が包帯だらけだということに気付いた。
「朽木隊長」
卯ノ花が入口に立っていた。
「ご気分はいかがですか?」
「問題ない」
それならよかった、と微笑んだ。何故彼女は黙っていろと言ったのだろうか、と卯ノ花は考えていた。
朽木隊長が十三番隊の隊士と婚約した、という話が人づてに耳にはいった後、結婚したのだという知らせを受けた。どんな人なのだろうかと噂話をする四番隊の隊員を注意しようと思ったら、現れた浮竹が、いい子だぞ、と間に入っていた。昔からよく知っているのだと笑っていた。それで、何度か見たことのある者だと思い出した。
「それでは、朝食をお持ちしましょう」
卯ノ花が出ていくと、白哉は息を吐いた。実際に市丸にやられたのは自分だ。ではない。
そして、ふと思った。は今どうしているのだろう、と。あの騒ぎの中、どうしていたのだろうか。
自身の場所が家の者に伝わっていないはずはない。黒崎一護ですら、窓からだったとはいえ、この病室へ訪れた。なにか計画を知っていたからだろうか。そこで白哉は考えを改めた。藍染たちの計画を知っていたら、報告があるはずだと。
「兄さま」
「よお、白哉」
ルキアと一護が部屋の入口に立っていた。白哉と視線が合うと、二人は部屋へと入ってきた。
「お加減はいかがですか?」
「問題ない」
ルキアが問うと、白哉は短く返した。
「白哉さあ」
相変わらず呼び捨てのままの一護に眉根を寄せた。
「無理矢理結婚させたのか?」
「なっ!」
主語のない文に、白哉は視線をルキアから一護へと動かした。
「のこと、どう思ってんだよ?」
「一護!おまえ!」
慌てるルキアとは違い、白哉は冷ややかな目になった。
「兄には関係のないことだ」
答える気がないという態度に、一護は睨んだ。
「のこと、好きなのか?大事なのか?」
気易く呼ぶな、と怒鳴りつけたい気持ちを押さえながら、低い声で問うた。
「何故、兄がを知っている?」
「の見舞いに行ったんだよ」
「一護!!」
内緒といっていたとの約束を違えた一護にルキアは咎めるように呼んだ。しかし、一護は、うるせえ、と短くルキアを黙らせた。
「見舞い?」
「ああ。アンタには黙っててくれっていわれたけどな」
白哉は見舞いという言葉に動揺した。怪我をしたのか、と。だから自身の見舞いに来れなかったのだと合点した。
「藍染の野郎にやられたんだとよ。死んでないのが奇跡だと卯ノ花さんもいってたぜ」
何故卯ノ花はいわなかったのだろう、と白哉は食事を持ってくるといって出ていった人物を思った。
「のことどう思ってんだよ」
「大切に思っていても、兄にいう必要などない」
苛立ったような声に、一護はムッとした。ガッと白哉の胸倉をつかんだ。
「は、ルキアの姉になるために嫁いだと思ってんだよ!身代わりになるためだけだと思ってんだ!」
「えっ!」
ルキアは初めて知った事実にぎょっと目を丸くした。白哉も突然告げられた言葉に目を大きく見開いた。
「なんでちゃんと本人にいってやらねえんだよ!」
一護はの悲しそうな表情を思い出し、目の前の相手を殴ってやりたい気分になった。
「病室で、何してるんですか?」
にっこりと笑いながらも黒いオーラを放つ人物の登場によって、一護の手は離れた。
「何故いわなかった?」
白哉が卯ノ花を見ると、卯ノ花は困ったように微笑んだ。
「さんが、そう望まれたからです」
旧姓に苛立ちを感じた。
「なぜ」
「てっきり夫婦喧嘩でもされたのかと」
遠まわしに何処か自身を責めている相手に、白哉は顔を顰めた。
「貴方もまだ動いていい状態ではありませんから」
ベッドから立ちあがろうとすると、卯ノ花は再びにっこりと笑った。白哉はその笑顔に珍しく舌打ちしたくなった。
「まあ、一応さんの病室をお伝えしておきますね。ただし、無理をして傷口が開くようなことはないように」
ふふふ、と黒いオーラを醸し出した卯ノ花に、一護とルキアは頬を引きつらせた。
(戻) (頁) (進)
UP 06/01/14