スレチガイ アンノウン
03. 少女の知らない感情
「。」
「亮君?」
教室のドアに亮君が寄りかかっていて私を呼んだ。
「帰るぞ。」
「え?で、でも・・・」
「行ってきなさいよ、。私、忍足と帰るから。」
さっきまでちゃんと帰る話をしていた私は少しオロオロしながら自分の鞄を手にした。
いつもなら亮君は絶対に私を迎えに来ないのに。
「あ、あの・・・」
「あ?」
「きょ、今日はテニス部に顔出さないんだね。」
「・・・ああ。」
いつもと何かが違う。
亮君、何か有ったのかな・・・?
「えーっと・・・亮君。」
「・・・・・・」
「手、繋いでもいい?」
「・・・ああ。」
ぶっきらぼうに出された手をみて私は嬉しくなった。
そして、そっと私と違って大きな手をギュッと握った。
少しかさかさしてて大きい手。
私の大好きな亮君の手。
手を繋いだ瞬間が私は一番幸せを感じる時かも。
「。」
「はい?」
「寄ってく、か?」
呼ばれて見上げると亮君は公園を指していた。
「いいの?」
「ああ。」
「ありがとう。」
ニッコリと微笑んで見れば、ふん、と亮君は早足で私を引っ張った。
照れた時の亮君の癖。
自動販売機でドリンクを2つ買って、ブランコに座った。
「なんか、久しぶりだよね。こんな風に放課後一緒に帰るの。」
「そうだな。」
「そういえばね。この間、ちゃんと美味しいカフェに行ったの。」
私はレモンティーを飲みながら学校でのちゃんの話をした。
亮君は最初眉間に皺を寄せたけど、多分それはちゃんの名前が最初に出てきたから。
ちゃんと亮君はなんだかいつも口喧嘩をするから。
明々後日は、亮君の誕生日だ。
「あ、そうだ、亮君。」
「どうした?」
思い出したように言った私に亮君はさっきと違って優しい顔で聞いた。
「またなんかが言ったか?」
「ううん。ちゃんじゃなくてね。」
「・・・?」
「し、明々後日もテニス部に出るのかなぁ?って・・・」
「・・・・・・」
ドキドキして私は赤くなってるかもしれない顔を隠すように俯いた。
「ああ。明々後日も、テニス部にでて遅くなると思う。」
ズキン、と心が痛んだ気がした。
「そ、そっか・・・」
「だから、明日も明々後日も一々確認しなくていい。」
「あ、うん。わかった・・・」
笑わなきゃ。
笑顔、作らなきゃ。
沈む心と反対に私は亮君に笑顔を見せてブランコから立ち上がった。
「帰ろっか?」
「ああ。」
不安を隠すように私はギュッといつもなら握っている亮君の手じゃなく、自分の鞄を両手で握った。
もちろん、亮君は、手を握ってもいい、と私が聞かなかったから手をポケットに突っ込んだままだった。
微妙な空気が私達を包んだまま私達はそれぞれの家に帰った。
★☆★ ☆★☆ ★☆★
家に帰ると紅夕から電話が合った。
「もしもし?」
『俺。』
「あ、ゴメンね、紅夕。今日急に亮君が迎えに来たから待ってられなかったんだ。」
『ああ、に聞いた。』
少し静かな時間が流れた。
『?』
「ん。」
『なんか、あったのか?』
紅夕は鋭い。
私の気分をいつもすぐに当ててしまう。
「ちょっと、ね・・・」
『何があったんだ?』
「そんなに、たいした事じゃないの。」
ただ、私が勝手に落ち込んでるだけだし。
『・・・・・・』
「ねえ、紅夕。」
『なんだ?』
「明々後日、一緒に帰ってくれる?」
『え?木曜?』
「うん。木曜。」
『・・・明々後日、宍戸の誕生日じゃないのか?』
「うん・・・でも、いいの。」
『良くないだろ。誕生日に何かしたいってお前言って―――』
「いいの。先に帰っててくれって言われてるし。」
紅夕の言葉を遮って、言い訳した。
少しの沈黙の後、紅夕は溜息をついて、わかった、と言ってくれた。
「有難う。」
『ただし、俺見たい映画があるから、付き合ってもらうぞ。』
「いいよ。」
他にも色々場所を言う紅夕に笑ってしまった。
そして私に気を使う紅夕に少し申し訳なく思った。
「ごめんね。紅夕。」
『は?なんか言った?』
「ううん。なんでもない。」
『そうか、じゃあな。』
「バイバイ。」
小声で謝った私の声が聞こえなかったらしい。
プツと電話を切って、私はそのままベッドに倒れこんだ。
私はその時、亮君が何を思ってるか、なんて考えもしなかった。
自分のことで精一杯で、不安を隠そうと、埋めようとして。
彼の優しさの訳や、彼の不機嫌だった訳なんて、気付かなかった。
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