向かいの建物に男が二人見えたと思ったら、和真君が部屋に飛び込んできた。咄嗟に音楽を聞いていた静琉さんを壁際へと押した。窓が割れて、壁に突き刺さった。
「さ、さいころ?」
「カズ!なんなのよ、これ!」
「仙水が攻めてきやがった!」
「いぇえええええ!」
御手洗君のポケットから何か小さな機械が出てきた。盗聴器だ。
「なんてやつなんだい!自分の仲間に!ひぃ!」
ぼたんさんが叫んだら、更に何かが飛んできた。
「野郎、邪魔になったら即殺そうってか。くそったれが!」
「カズ!」
和真君が部屋から飛び出た。更に何かが飛んできた。
「おおい、待て!」
傷に響いたのか、御手洗君がかがんだ。幽助がドタバタ廊下を走っていくのが聞こえた。怪我人達よ、何をしているのか。
「だめだ」
御手洗君が呟いた。
「だめ?なんのことだい?」
静琉さんが問うた。外を見た。男たちは消えていた。
「とりあえず、座って、ね」
御手洗君をベッドへ座らせた。ぼたんさんが窓の外を見て、こんな街中でおっぱじめる気だよ、と不安げにいった。まさか。
「だめだ!」
はじまったよ、とぼたんさんが言うと、御手洗君が叫んだ。
「だめだ、あいつを連れ戻してくれ!」
「あいつって?桑ちゃん?」
汗をかいていた。状況からの緊張からなのか、傷が痛むのか。もしくは、両方か。
「だめって。なんで?」
「桑原を一人にしちゃだめだ!」
ガッと腕を掴まれた。静琉さんが、一人じゃない、と告げるが、御手洗君の焦りはなくならない。
「彼が、仙水さんが探していた、次元を切る能力者だったんだ」
「落ち着いて。和真の力を探していたって、それで?」
「仙水さんの狙いは、桑原を捕まえることに違いない」
「なんだって?」
ぼたんさんがベランダへ出た。あんなとこに、と呟いた。向かいのビルにさっき居た一人が戻ってきた。
「ぼたんちゃん、危ない!」
私は御手洗君をぐっと持って、窓から見えづらい壁際に押した。静琉さんも壁に背をつけた。ぼたんさんは、ひいい、といいながら、逆の壁へ慌てて移動した。
「仲間を攻撃するなんて、ありえないっつーの!」
バッと窓の前に立って、人差し指を向けた。
「霊丸!」
霊丸はまっすぐ男の方へ向かったが、男は避けた。当てるつもりは元々なかったけど、当たらないのは当たらないで腹が立つ。ムカッとしてると、静琉さんがドアの前に立っていた。
「このままじゃあいつらの思うツボだ」
「静琉さん!」
「あたしが行くよ!」
「それなら私が!」
「ぼたんちゃんと御手洗君よろしくね!」
あれでもあたしの弟だからね、と言った静琉さんはそのまま部屋を出ていった。ちょっと待った。私が行く方が狙われてもなんとかなる可能性がある。
「静琉さん!」
引き留めようとしても彼女はすでにいない。追いかけようとドアを出ようとした瞬間、眩しい光が入ってきて、ハッと振り返った。
「なっ――!」
目を開いたら、ぼたんさんとコエンマさんと天井が映った。
「ちゃん!」
「大丈夫か?」
背中が痛い。体を起こした。
「う」
「、何やってんだい」
玄海おばあちゃんの声に、頬を掻いた。
「いやー、急に本棚が倒れてきて」
「避けられなかったのかい?どんくさいね。お前らしくない」
呆れた声に、苦笑した。
爆発があって、本棚が倒れそうになって、その下に御手洗君が見えた。ぐっと体を押したら、自分は避ける時間がなくて。
「ぼ、僕を助けようとしたんだ」
突然聞こえた大きな声に、そちらに顔を向けた。
「なんで僕なんか助けるんだ!?僕はお前らの敵なんだぞ!」
ああ、泣きそうな顔だ。立ちあがった御手洗君は震えている。私は笑ってみせた。
「だって、怪我したら、嫌じゃない」
「あまり硬く考えない方がいい」
蔵馬さんが言った。あれ、いつの間に蔵馬さんが来たんだろう。蔵馬さんは御手洗君の肩に手を置いて、ビデオがすべてではないと安心させようとした。
御手洗君を見た。不安そうだ。人間の醜さがすべてだと信じていながら、それに恐怖している。そして、醜くない部分に戸惑い、困惑している。今の彼はきっとまっすぐに張られたロープの上に立っているような状態だ。
「静琉さん」
「和真は!」
目を開けた静琉さんに、蔵馬さんがさらわれてしまったことを謝った。
「謝るこたないよ。ただ敵の狙いが和真だって伝えられないで、みすみすしてやられたってことが悔しいね」
コエンマさんが驚いた声を上げた。仙水が探していた次元の能力者なのだと御手洗君が告げた。
「桑原の能力があれば、魔界の穴に張られた結界さえも切り裂くことができるというのか」
そうすれば、人間界に妖怪が闊歩することになる。
「幽助一人には任せておけんな」
「俺たちも追いましょう」
「うん。海藤と柳沢にも連絡を。蛍子と静琉はここに残って後始末を頼む」
と言うことは、私も一応戦闘要員ってことだ。
「僕は、僕は、どうしたら」
すがるような目だ。私は、微笑みを浮かべた。
「自分の進みたい道へ行けばいいよ」
蔵馬さんは、自分達と反対への道へ行くなら次会った時は敵として容赦しない、と突き放した。皆で外へ出た。階段を降りながら、外ががやがやしていることに眉を寄せた。
「さすがに騒がしいね」
「表は、おそらく野次馬でいっぱいです。非常口から裏へ出ましょう」
蔵馬さんの提案に、そうね、と頷いた。
「待ってくれ!」
後ろを向いたら、黄色いパーカーを着た御手洗君がいた。
「君たちと、同じ道を歩かせてくれないか」
不安そうに目をギュッと閉じた。私は蔵馬さんと顔を見合った。ふと笑みがこぼれた。
「手を貸そうか」
「一応急いでるしね」
二人で手を差しだした。御手洗君の目が大きくなって、私と蔵馬さんを交互に見た。両手を出して、私たちの手を取った。私は自分よりも少し大きな手をぎゅっと握った。もう迷わないですむように。
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UP 04/18/14