『私、』
『幽助の――妹なんだ』
仙水さんは、浦飯幽助に妹がいる、とは聞いていなかったので驚いた。スナイパーに向かって、霊丸を撃ったことに驚いた。
何よりも、僕にやさしいことに驚いた。
「柳沢と海藤は蟲寄駅まできます」
電話ボックスから出てきた蔵馬さんが言った。
「仙水たちは本当に入魔洞窟へ行ったのかねえ?」
ぼたんさんが首を傾げた。間違いない。
「そのはずさ。樹さんはもうすぐ穴が開くって言ってた。その時、桑原さんの力が必要だからさらったんだと思う」
「とにかく、ここにいても始まらん」
「幽助との連絡どうしよう。こんなことなら、通信コンパクト渡しておくんだったよう」
「あんな状況じゃ、しょうがないよ」
ぼたんさんがそう言うと浦飯さんの妹が苦笑した。浦飯幽助とは、似ていない。
「目的地は一緒なんだし。大丈夫だよ」
ポジティブだ。だが、玄海さんもそれに同意した。そして、行くよ、の一言で僕たちは歩き出した。
「へえ、御手洗君って年上なんだ」
「年下」
ぽつりと呟いた。なぜか僕は驚いていた。落ち着いているように見えるから。意外なんだろうか。
浦飯、、さん。心の中で呼んでみた。敵だった僕を、助けた人。
「私、御手洗君の一個下。幽助は、御手洗君の一個上」
今思えば、小さい子供みたいに泣いた自分が恥ずかしい。年下に泣きついたのか、僕は。でも、彼女はバカにせず、ただ静かに僕を抱きしめて背中を撫でてくれた。
『優しいから、苦しいんだね』
そのあとは、お茶を入れて、クッキーまで出してくれた。手作りだと教えられたそれはおいしかった。
『仲間を攻撃するなんて、ありえないっつーの!』
スナイパーを攻撃したのは、僕のことで、怒っていたからなんだ。
『だって、怪我したら、嫌じゃない』
アパートが爆発したせいで倒れてきた本棚から、僕をかばった。僕は、敵だったのに。僕より、小さい体なのに。僕より年下なのに。
「そういえば、柳沢さんと海藤さんって誰?」
知らないのは僕だけじゃないらしい。蔵馬さんが苦笑した。
「二人とも能力者だよ」
「少しアタシが鍛えてやったのさ」
へえ、と感心したような声を出した。
「海藤は俺の同級生でもあるんだ」
「え。大丈夫だったんですか?」
「まあ仕方ないさ」
仲が良さそうだ。二人が前を歩いているのを見て思った。いいな。
「どんな人なんです?」
「海藤は頭が切れる。小説も出してるんだよ」
僕の周りにいたやつらと、違う人たち。
強い人たちだ。強い人たちは、強い絆で結ばれていて、心が広い。
『自分の進みたい道へ行けばいいよ』
助けた恩を売りもせず、僕に自由を与えた。強い人だ。
「うーん、私あんまり小説読まないからなあ。御手洗君、小説とか読む?」
突然話を振られて驚いた。
「あ、いや、僕も、あんまり・・・」
そっかー、と頷いた。僕も一緒に居たら、こんな風になれるんだろうか。
「一緒だね」
にこにこ笑う彼女に、俺は小さく笑ってみた。
蟲寄駅についたら、こちらを見ていた赤い制服を着た眼鏡の男が手を上げた。隣には、違う制服を着た髪を逆立てた男が立っていた。
「南野」
仲間らしい。僕は一歩引いた立ち位置で、状況を話す蔵馬さんを見た。どうやら眼鏡が海藤さんで、柳沢さんが髪が逆立ってる方らしい。
「桑原さんがさらわれたって、一体どういうことなんです!」
柳沢さんが言うが、玄海さんはあとから話すと告げた。
「それより、持ってきてくれたかい?」
「ええ。このあたりの地図です。ここが現在地。これが入魔洞窟の入り口」
玄海さんに地図を見せた男が、地図から顔を上げた。眼鏡の男がくいと眼鏡を上げた。
「彼らは?」
視線が僕へ向けられたあと、僕の斜め前に向いた。
「心配ない。仲間さ。洞窟を案内してくれる」
「よろしく」
緊張しながらも言うと、二人が顔を見合わせた。不思議そうな顔だ。視線が僕から、隣へ移動した。
「こっちは、ちゃん」
「浦飯幽助の妹です、どうも」
「え、浦飯さんの妹!?」
「似てないね」
「あはは、何よりです」
よく笑うと思った。深刻な状況なのに、彼女はよく笑っている。でも、黒ノ章に出てきた笑いながら残酷な事をする奴等とは違う顔だ。
「さっさと行くよ」
「はーい」
玄海さんの言葉に頷いた。皆が歩き出すのを見ていた。数歩離れて、彼女が振り返った。
「早くいかないと、おいてかれちゃうよ」
にっこり笑った。皆足早いんだよ、と言って、僕の手を引いた。その手は、少し冷たい。手の冷たい人は、心が温かい。本当だ。いや、手の冷たい人は、強い人なのかもしれない。
「うん」
僕の返事を聞いて、嬉しそうにさんが笑った。
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UP 04/25/14