ゲームマスターは意外にも小さな子供だった。
性格はお世辞にも良いとは言えない。いや、子供だからこそ、残酷なのかもしれない。

「仙水さんはさ、天沼は強いから阻害される。だけど、御手洗は弱いから阻害されるってさ」

御手洗君の表情は、私からは見えない。天沼君の目がにぃっと細くなった。

「確かに、俺は周りの人間があまりにバカで、わざとそいつらと外れてたんだけど」

動揺を誘う天沼君の行為に、幽助が不満の声を上げた。

「おい!てめえ!ごちゃごちゃうるせーぞ!」
「実際のゲー魔王も色んな野次を飛ばす。熱くなったほうが負けさ」

そう、熱くなったら負け。動揺してはいけない。でも、御手洗君は動揺しているのか、ちょっと操作をミスして、ワンセット取られた。でも、そのあとは、しっかりポイントを取って、無事勝つことができた。

「セット数、三対一、御手洗選手の勝利」

機械の声に、ほっとした。そして、心配だった。御手洗君は大丈夫だろうか。刃のように鋭い言葉に、傷ついていないだろうか。

「よっし、まずは一勝だ!」

幽助がガッツポーズをした。振り返った彼は少し硬い表情をしている。途中で、足を止めて、振り返った。

「天沼。君の言うとおりだ。僕は弱い。それを認める勇気さえなかったから、周りの人たちを呪った。魔がさして、こんな恐ろしい計画に手を貸したのも、僕が弱いせいだ」

天沼君は、ムッとした表情で、御手洗君を睨みつけている。

「でも、変わる。自分が弱い人間だってことから、目を逸らさないよ」

僕は強くなる。そんな声が聞こえた気がした。嬉しくなった。
仙水のせいで人間不信に陥った彼は、私達と過ごした数時間で、大きく変わっている。いや、元々強い人間だったのかもしれない。仙水のせいで、その強さを封じ込められていただけかもしれない。

「よくやったな。まずは一勝だ」
「お疲れさま」

戻ってきた御手洗君に笑って見せた。少し頬を赤くした御手洗君が、ありがとう、と笑った。
「シューティング」「バトルヘリ」「レベル6」とスロットが表示した。

「シューティングか。魔人のレベルが6なら勝てる。あたしがやるよ」
「お願いします」
「ばあさん、本当に大丈夫なのかあ?」

玄海おばあちゃんのお家に泊まりながら鍛えてもらっていたときに、私は見たから知っている。お年寄りがゲームが苦手だなんて思いこみはあの人には当てはまらない。
周りが海の景色に変わって、ヘリコプターの風が吹いた。本当に、すごい能力だ。天沼君は、にこっと可愛らしい笑顔で、玄海おばあちゃんを見た。

「うまい!ノーミスでワンステージをクリアした!」
「へえ!」

海藤さんが感心したように言った。天沼君が目を輝かせた。

「あたんねーぜ、ばあさん!」

このゲームの難しいところだ。

「うるさいガキどもだね。これからが、あたしの腕の見せ所なんだ」

玄海おばあちゃんは、うまくヘリを操り、ぐるぐる回る棒の間をすり抜けた。

「す、すりぬけた!」

海藤さんが驚いた。そのまま、的を撃った。あんな裏技があったとは。

「すげー!あんな裏技があったのか!」
「だてに年は取ってないよ」

にやっと笑った玄海おばあちゃん。絶対年の問題じゃないよ。

「ゲーム終了。勝者、玄海」

ふんと玄海おばあちゃんが笑った。

「へえ!すごいやあ、おばあちゃん!」

目を輝かせた天沼君の姿に、私は胸の奥に痛みを感じた。

「いいのかなあ、そんなうまい人出しちゃって。あとできっと後悔するよー」

うしし、と笑う天沼君に、いいから続けろ、と幽助は言った。自分の番だと言わんばかりだ。私もやるの、わかってんのかな。
「アクションバトル」「暗黒武術」「レベル1」と表示された。
これは幽助がやるな。確実に。

「やりい!」

幽助が嬉しそうにいった。予想通りだ。油断するなよ、と玄海おばあちゃんが言った。
忠告通り、幽助は一度死んだ。急所を狙っていないからだ。玄海おばあちゃんの野次、もとい、アドバイスが飛ぶ。なんとか、勝った。

「よし!これで三勝だ!」

幽助が笑った。

「バトルIQパズル」「サイコロ」「レベル9」とスロットが表示した。私の番だ。

「よっし。勝ってこい」

幽助の言葉に、当たり前、と笑って見せた。
魔人がルールを説明し、画面の中へ消えた。目の前に巨大なチェス盤のようなものの上にランダムに置かれた複数の巨大なサイコロが見えた。一つのサイコロの上に自分の背中が見えた。奇妙な能力だ。がこん、がこん、と巨大なサイコロの上を歩いて、目の数を揃えていく。

「あんた、御手洗さんのこと守ったんだって?」

隣にあったサイコロの上を見上げると、天沼君が座っていた。えい、とそれを転がしてみたら、別のサイコロの上に彼は移動していた。

「仙水さんに聞いたんだ。スナイパーといったら、御手洗をかばって攻撃した女がいたって」

あんたのことでしょ、と笑った。

「それが、なに?」
「なんで?御手洗さんみたいなのが、タイプなの?」

まったくもって最近の小学生はませている。こらマセガキ、と幽助が後ろで叫んだのが聞こえた。がこん、と彼が座っていたサイコロを消した。また移動していた。消そうとしていたサイコロを魔人に変えられた。めんどくさい。

「なに、お姉さんタイプだった?少年」

私の答えが気にいったのか、けらけらと天沼君は笑った。地面に降りることになってしまった魔人をグニッとサイコロで踏んで見せた。ぎゃ、という声が上がった。

「おねえさん、結構これ解くの早いもんね。俺、頭いい人好きだよ」

ニッと笑った。本当にませている。

「御手洗さんがさ、突然なんか強くなった気になったのって、お姉さんのせいでしょ」

がこん、と三つ並んだ三が地面へと消えていく。移動に遅れて、地面に降りてしまった。

「御手洗君は、元々強い人だよ」

サイコロを動かして私を潰そうとした魔人が、けけけ、と笑った。間一髪で逃れた。

「ふーん、そんなこと言うから、御手洗さんが、お姉さんのこと好きになったのか」

稲妻が降りてきた目に駆けた。再びサイコロの上に上がった。

「御手洗君が、私のこと好きだなんて一言もいってないんだけどな」
「だって、絶対そうだよ。ねえ、御手洗さん、そうでしょ?」

外野へと声をかけた天沼君に、私は苦笑した。

「よいしょっと」

稲妻がそばで鳴るが、音は大きくない。それに手を伸ばしても痛くない。

「面白い能力だね」

感心したようにいえば、嬉しそうに天沼君は笑った。

「でしょ!ゲームが現実大になったほうが、絶対楽しいよね!おばあちゃんのうまかったシューティングとかさ、やっぱこっちのが楽しいんだよなー」

同意すると、更に嬉しそうに笑った。

「テリトリー解く気は、ないのよね?」
「ないね。だって、そうしたら遊べないじゃん」
「どんなゲームでも再現できるの?」

もちろん、と自慢気に答えが返ってきた。

「すごいね。どこまで、再現できるの?」
「全部だよ」

ふふん、と自慢気だ。やはり全部か。

「で、そんな質問して、逃げられると思ってるの?」
「逃げる気はないわ。だって、私たちが勝つもの」

最後のサイコロを揃えて、しゅうううとサイコロたちが消えていった。

「バトルIQパズル、勝者、浦飯」

すべて消えると、天沼君はまだ椅子の上にいた。

「ああ!お姉さん、すごいよ!俺より早いや!」

玄海おばあちゃんの時に見せたような、無邪気な笑顔だ。

「ねえ、お姉さんさ、俺が勝ったら、俺の彼女になってよ!」

ませている、と改めて思った。

「さすがに小学生はお断りかな」

にっこりと笑ったら、むっと唇を尖らせた。
皆の方へ、歩いた。

「なに、ガキに口説かれてんだよ」

幽助の言葉に肩をすくめた。そんなの私のせいじゃないし。それよりも四勝、と喜んでほしい。

「あ、あの!」

御手洗君が真っ赤な顔をしている。いや、照れられると、こっちが照れます。

「み、御手洗君が気にすることじゃないよ。あの子、野次飛ばすの好きみたいだし」

最近の小学生はませてるねー、と笑って見せた。

「そ、そうだね」

ちょっとドモりながらも返事をしてくれた。

「やれやれ、どうやら、俺様の出番だな」

天沼君がゲームのセリフを真似た。いよいよか、と御手洗君が呟いた。

「幽助、よく聞いてくれ。正直な俺の意見だ。天沼が実際ののゲームのボスと同じ程度のレベルなら、十中八九俺か海藤のどちらかが勝つ」

真剣な表情に、幽助が緊張したような表情を見せた。

「だが、天沼は実際のボスより強いに違いない。だからこそ、このゲームを選んだはず」
「今までの魔人達とはケタ違いってんだな」
「そうだ。それで、もし、俺と海藤が負けた場合は、一度ここから脱出することを考えてくれ」
「脱出?!」

蔵馬さんの言葉に私は、眉を寄せた。

「それは無理でしょう」

さて、と天沼君が伸びをした。私の言葉に、蔵馬さんは私を見た。

「テリトリーからは、おそらく抜け出せない。ゲームは強制終了できない」

「クイズ」「一般」「レベルG」とスロットが表示した。得意じゃないんだよな、と天沼君が呟いた。海藤さんがやると前へ出た。

「得意じゃないと言った割には、自信たっぷりと言った感じじゃないか」

蔵馬さんが呟いた。

「御手洗君、天沼君の能力で知ってることは?」
「実は、僕もあいつの能力を実際に見るのは初めてなんだ」

申し訳なさそうに御手洗君が言った。

「だから、彼がゲームを現実化できるってことくらいしか、わからない」
「ゲームを現実化」

小さく呟いた。
どこまで再現されるのだろうか。本人は全部だと答えた。プレーヤー人数は、そのゲームに必要な人数いなければできない。ゲームの登場人物以外は、テリトリーに入れない。では、エンディングは?
クイズゲームが始まった。天沼君はハンデをやる、と言って台から一歩下がっている。海藤さんは、問題の三文字出ただけで答えた。

「バトルクイズ一般の問題数は、全部で一万七千問。その中に『アマゾ』で始まる問題は、アマゾンに関する三問だけしかない。答えはそれぞれ、ポロロッカ、ピラニア、アマゾンハイウェイのどれかl
「問題全部覚えていやがんのか」

二万問近いものを暗記していることに柳沢さんが、感心したような、呆れたような声を上げた。幽助は純粋に感心した。
それでも、天沼君の顔に焦りはない。何故、彼は何もしないのか。

「おっしゃ!これで、5−0だ」
「すげーぜ。俺には答えを聞いても一問もわからねえ」
「天沼はずっと画面を見ているだけだった。本当にハンデをあたえているだけなのか」
「いやぁ、海藤がすごすぎるから、手が出ないんじゃねえのか」

バカだ。玄海おばあちゃんが否定した。

「ちがうな。天沼をよく見てみろ。あの目は勝利を意識した自信の目だ」

そう。負ける気など全くない。御手洗君は驚いた声を上げた。

「そんな、あの海藤より早く正解を出す方法があるのか」
「ありえねーよなあ」

柳沢さんが頬を引きつらせた。

「よし、わかった」

天沼君が指を鳴らした。

「よーし。反撃開始だー」
「わかった?なにがだい?今までの五問は、俺の実力を探っていたというのか」

べーと生意気な子供らしく舌を出した。実力など気にしていない、とはっきりと告げた。

「次の問題いきます」

機械がそういった瞬間、天沼君はボタンを押した。問題が出題される前にボタンを押すと、答えすらでない。

「じゃ、あいつはまったくの勘で答える気か?」
「そんなの当たりっこないぜ」

まさか出題パターンを覚えているのか。

「問6の問題は、西暦2000年、地球に激突すると話題になった小惑星の名前は?答えは、Bのトータチス」

天沼君が自信にあふれた声で言うと、画面から正解の音楽が流れた。

「な、なんだとお!?」
「本当だ!」
「まさか、予知能力?」

幽助の言葉に私は否定した。

「そんなわけないでしょ、バカ」

なにおう、と幽助が私を睨んだ。

「ゲームは所詮プログラム。ランダマイズされたように見えても、必ずそこには法則がある」

それを天沼君は見抜いた。

「バカな!このクイズの問題も答えも、すべて順序はバラバラなはずだ!」
「あまいね。バラバラに見せて、実は法則があるのさ。その公式を出すのに、だいたい五問ぐらいかかるんだけどね」

信じられない、と唖然となった海藤さん。

「ハンデ五問じゃ、足りなかったかな?」

ニヤッと笑った。改めてゲームが得意なのだと思った。
飛影さんが、一歩前へ出た。

「おい、飛影。どうする気だ?」
「あのゲームを壊す」

飛影さんの言葉に、無茶だ、と御手洗君と柳沢さんが止めた。

「黙って見ているよりマシだ」

飛影さんの刀が画面を切ったが、画面はすぐに復活していた。

「やはりだめか」
「飛影あきらめろ」

ちっ、と飛影は舌打ちした。やはり逃走は無理だろう。この空間からは、ゲームマスターに勝たなければ出れない。
海藤さんは、勘で対抗することを試みたが、やはり負けた。

「完全に負けた。クイズの順番に法則があることには気付かなかった」
「でもいい線いってたよ。あんた、強いよ。今度は別のゲームで戦いたいな」

ニッと笑った彼は子供だ。
海藤さんが私たちの方へ戻ってきた。異常は無さそうだ。
ゲームの現実化というのは、エンディングも再現するのだろう。私は目を伏せた。

「あとはもう蔵馬に頼るしかねえな。ああ?そういえば、今まで三人が楽勝してたから気にしなかったけどよ。天沼のテリトリーの中で負けちまったら、一体どうなるんだ?」

私の表情に御手洗君は、あの、と小さく声をかけた。私は、心配そうな目に苦笑した。大丈夫、と小さくかえした。

「ただ対戦ゲームを楽しんでるって感じだ」

海藤さんは、天沼君が仙水の計画を理解しているのだろうかと首を傾げた。

「海藤、お前、なんともないか?」

蔵馬さんの問いに、海藤さんは魂を取られることを覚悟していたが、何も異常はない。

「もしや、だとしたら」
「おそらくは」

蔵馬さんは私の考えと同じ結論に至ったようだ。

「多分、私たちは何度でもゲームに挑戦できる。でも、諦めたら、死ぬ」
「はああ?どういうことだ、

幽助が、ぎょっと目を丸くした。蔵馬さんは頷いた。

「ゲームマスターの能力は、ゲームの現実化。本当のゲームでは、主人公側が負けると、つづける、と、あきらめる、の選択が表示される。続ける場合、また一ゲーム目から始まる。でも、諦めた場合、THE ENDの表示とお墓のイラストが出てくる」

私の言葉に、蔵馬さんは目を閉じた。

「おい、ちょっと待てよ。天沼に勝つまで俺たちはゲームしてなきゃなんねーのか?そんな時間はねえぞ!」
「天沼は、初めから俺達と命のやり取りをする気はないんだ。時間稼ぎが目的だ。境界トンネルが開くまでのな」

その通り、と天沼君が肯定した。

「時間が来たら、すぐにテリトリーを解いてやるよ」

無邪気に笑った天沼君に、私は胸の奥がいたんだ。彼は自分が負けた場合どうなるのかをわかっていない。
向かいの建物に立っていた男の姿が閉じた瞼の裏に映った。仙水は、なんて残酷な事をするのだろう。
「パズル」「スリーセブン」「レベルG」とスロットが表示した。

「蔵馬さん」

ぽんと肩に置かれた手の主を見上げた。

「俺がやる」



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UP 05/01/14